2021年6月9日更新
肺炎は、第二次世界大戦前までは結核や胃腸炎と並んで死亡率の高い疾患でした。その後、抗菌薬の開発、医療サービスの充実などにより死亡率は急速に低下しました。しかし、日本社会の高齢化により、2018年では肺炎と誤嚥性肺炎を合わせると、およそ13万人の方が亡くなっています。
肺炎の年代別の死亡者数では、全体の96%以上を65歳以上の高齢者が占めており、新型コロナウイルス感染症もですが、普通の肺炎にも注意が必要です。
また、15歳未満の小児も肺炎にかかることが多く、看護する保護者の負担など社会的影響の大きい病気といえます。
咳、黄色や緑色などの色のついた痰、発熱、息苦しさ、食欲低下、胸の痛みなどが典型的な肺炎の症状です。マイコプラズマ肺炎やクラミジア肺炎では、頑固な咳のわりに痰がほとんど出ないことが特徴です。
しかし、高齢者の場合、典型的な症状がはっきりと現われないことがあり、脳神経内科や整形外科を受診したら肺炎だった、とわかることも少なくありません。
食欲がない
寝てばかりいる
立ち上がれない
よく転ぶ
発熱や激しい咳などの症状がなくても、いつもと違うと感じたら早目に受診しましょう。
胸部X線、CTなどの画像検査、血液や尿検査、痰や咽頭ぬぐい液検査と症状から肺炎と診断します。年齢、食欲や脱水の有無、酸素吸入が必要か、意識がはっきりしているか、血圧が下がっていないかなどを考慮して、入院するか通院で治療するか決定します。
食道に送られるべき唾液や食べ物が誤って気管に入ることを誤嚥といいます。病気や手術の後遺症で飲む力が低下している方、胃・食道の中身がのどへ逆流しやすい方が、吐き出す力が低下すると、誤嚥をおこし肺炎を発症する危険性が高いと考えられています。
マイコプラズマ肺炎、クラミジア肺炎、ウイルス性肺炎は飛沫感染すると考えられ、家庭内や学校・施設などで集団発生の報告があります。
レジオネラ肺炎は、ヒトからヒトへはうつりませんが、レジオネラ菌で汚染されたエアロゾル(冷却塔水、加湿器や循環式浴槽)の吸入、水(循環式浴槽や河川の水)の吸引・誤嚥、土埃の吸入などにより感染します。2018年7月の豪雨災害の後、岡山県でレジオネラ肺炎の報告が増えました。
低栄養や寝たきり状態による免疫力低下も関わっているため、抗菌薬による治療だけでなく、栄養状態の改善、嚥下や全身のリハビリテーション、適切な口腔ケアなどによる再発予防が必要です。
しかし、疾患や老衰の末期では、誤嚥性肺炎の治療をすることで寿命を少し伸ばせても、生活が豊かにならず辛いことが増えたり、肺炎を繰り返したりする可能性があります。患者さんやご家族の意思を尊重したうえで、治療方針を決めていく必要があります。
肺炎は、のどや鼻の奥に住み着いている肺炎球菌が、何らかの原因で増えて気管へ侵入し、肺炎や敗血症を発症すると考えられています。65歳以上の高齢者や呼吸器、免疫機能に障害のある方は、予防接種で肺炎を予防する必要があります。定期接種対象の方は、保健所からお知らせが届きますので、確認しましょう。
また、インフルエンザに感染して気道に炎症があると、肺炎がおこりやすくなります。インフルエンザ予防接種と併用し、肺炎の発症を抑制しましょう。